杉の木の両親と松の木のこども


昔々あるところに、杉の木の夫婦が住んでいました。

お互いに同じ杉の木ですから、価値観も行動パターンも同じで

友だちのように仲の良い夫婦でした。 

 

あるとき、この夫婦に待望の赤ちゃんが宿りました。

夫婦は、これから生まれてくる子どものことを考えると嬉しさでいっぱいです。

 

「せめて健康に生まれてきてくれさえすれば・・・」

 

と神様にお祈りする毎日でした。つ

いに出産日を迎え、無事に丸々と太ったかわいらしい男の子が生まれました。
しかし、個性は遺伝しませんので、生まれてきた子どもは松の木でした・・・。


乳飲み子の赤ちゃんの頃は「個性」が強く出ませんでしたが、

成長するにしたがって両親の期待は裏切られることになります。

杉の木の両親は、

 

「木はまっすぐに空に向かって伸びるもの」

 

と信じていましたが松の木のわが子はくねくねと曲がりくねって、

横に枝を伸ばして成長していったのです。

 

このままではいけないと感じた両親は、何度も話し合ってある決断をしました。

数日後の夜、すやすやと寝息を立てて眠っているわが子を、

ロープやガムテープでぐるぐる巻きにして、大きな枝切りバサミで、

横に伸びた枝をすべて切り落としてしまったのです。

 

寝込みを襲われた子どもは、ビックリして泣き叫んでいます。

 

「お父さん、お母さん、痛いよ~!」

「僕が何か悪いことをしたの?」

「どうして僕を傷つけるの?」

「僕は僕のままじゃいけないの?」

 

と、血だらけになりながらも必死に両親に訴えます。

しかし、杉の木の両親は、松の子どもの言葉に耳を貸そうとはしません。

 

「これが、親の愛情だ」

「大人になったら、きっとわかるわ」

「これが、お前のためなんだよ」・・・

枝をすべて切り落とされてしまった松の子どもは、

成長の芽も、可能性の芽も、全部一緒に切り落とされてしまい、

小さく小さく萎縮してしまいました。

 

その後も枝を切り続けられて育ったその子どもは、個性を否定され、

自信を失って、無口な友達の少ない子どもになってしまいました。


しばらくして、松の木の子どもも成長期を迎え、どんどん大きくなっていきました。

しかし、松は杉にはなれません。

松の木の子どもは、その枝を横に横に伸ばして成長していったのです。
それを見た杉の木の両親は、落胆してしまいました。

 

「この子は、もうダメだわ」

「ちっとも直らなかったじゃないか」

 

そうして子どもが連れて行かれたのが、精神科の病院や

カウンセラーの先生のところでした。

 

最初の先生は、たまたま「松の木」の先生でした。
その先生は言いました。

 

「お宅のお子さんは全く問題ないですよ。

むしろ、すくすくとそだっていますよ」

 

それを聞いた両親は「この医者は、ヤブ医者だわ。信用できない」と言って、

病院を変えました。

 

次に行った病院の先生は、「桃の木」の先生でした。

杉の木の両親には、桃の木の先生の言っていることが全く理解できません。
不信感をもった両親は、またまた病院を変えました。

自分たちが気の済むまで何度も・・・。

そして、やっと「杉の木」の先生にめぐり合いました。

 

「ご両親の苦労がよくわかります。

やっぱり、木はまっすぐに空に向かって伸びていないとね」

 

それを聞いた両親は、とても安心しました。

 

「やっと、私たちを理解してくれる素晴らしい先生に出会えたわ」

 

と、大喜びしました。

 

そんな両親の選ぶ学校は「杉の木学園」、塾は「杉の木塾」。

誰からも理解されることなく、理不尽な教育と躾を受け続けました。

 

松の木の子どもは、家で枝を切られ、学校でも、塾でも枝を切られ、

病院でも枝を切られ・・・。

 

果たして、この子どもはどんな大人に成長するのでしょうか?

 

 

個性心理學研究所(R) 弦本 將裕(C)

 


これは、弦本將裕先生が全国各地の講演会の最後に必ず話される、

実話に基づいたお話です。

先生の著書にも掲載されています。

 

『ほめる力が子どもを伸ばす』→ 

『こどもキャラナビ』→ 

 

あなたは大切なわが子に何を望みますか?
親の個性の押しつけや、価値観の押しつけよりも

子どものキラキラ光る個性を知り、

温かく見守ることができたらいいですね・・・。

 

わが子の成長を見守ることは、ときにはとても難しいことです。

特に自分の個性と子どもの個性が大きく違う場合には・・・。

 

子どもの成長に合わせた接し方を、

適確にまとめた言葉があります。

  乳飲み子からは肌を離すな
  幼児は肌を離して手を離すな
  少年は手を離して目を離すな
  青年は目を離して心を離すな           

素敵な言葉ですね。